2014/10/02

かゆがらせ


押し入れの隅って環境は、普通なら家屋害虫というレッテルを貼られている生きものたちにとってかなり安心なサンクチュアリといえる。

だが、ウチは違う。ヨメの掃除機がもたらす恐るべき環境破壊により、室内は生物の影が薄い。核戦争後の地球も、キットこんな様子だろうというくらいにサツバツとしている。

重い冬布団が入った袋の後ろ側なら、魔の手も伸びていないだろうと思ったが、残念なことにあまりホコリは溜まっていなかった。
一度破壊された自然の傷はなかなか癒えないものである。

それでも、懐中電灯の光りを斜めに照射して、合板上でかすかに動くヒラタチャタテの幼虫を数個体見つけることができた。
何かダニがいないかと思って、ヒラタチャタテの周囲のホコリを吸虫管で採集した。

ホコリを実体顕微鏡で調べると、ヒョウヒダニ類の死骸のカケラに混じって、やっとのことでミナミツメダニ雄の死骸が1つだけみつかった。
絶滅危惧種として保護してやりたい心境である。



室内に生息しているツメダニ類が、ヒトの皮膚を刺す理由を考えてみた。
ヒトの組織から吸汁して発育するわけでもない種が、なぜヒトを刺すのか?
上皮の外層部分に、ほんの微量注入されるツメダニの唾液ごときに、どうしてヒトの体がそんなに過激に反応することがあるのか・・・・・、本当におかしな話だ。
ツメダニ症は偶発的な刺咬によるものに過ぎないと思うし、個体数が少ないと問題にならないという考えを変えるツモリもない。
でも、カユミをもたらすのは、実のところツメダニ類の戦略かも知れない。

動物は痒くなると皮膚を掻く。室内塵のなかで剥離上皮の割合が高まれば、ヒョウヒダニ類やコナダニ類が増えやすくなるだろう。
ツメダニ類も結果的に、美味しい丸ぽちゃコナダニ団を、より多く頂くことができるチャンスが増えるはずだ。

動物の皮膚を間接的に利用することは、ツメダニ類の進化にも重要な関わりがあると思う。
動物の皮膚利用を究極にまで高めたのがケモノツメダニ類といえるだろう。
もはやコナダニ団を捕食する必要がなくなって、カサブタだらけの皮膚に住み着いて、細胞間質液を直接利用する道を歩んでいるヤツラだ。ヒトを宿主をするケモノツメダニは、幸いにも見つかっていない。
ツメダニが生息している室内であっても、痒くなりにくい対策があればいいなと思う。ツメダニの唾液成分をよく調べてみるという方向性もよさそう。