2015/12/23

木材害虫じゃない木材のムシ

事務所のムシをチョビチョビと整理。ぜんぜんまったく進まない。どう断捨離すべきか。

ナガヒラタムシ Tenomerga mucida (Chevrolat, 1829)が多数入った紙包みを発掘した。




ナガヒラタムシは市街地でもたまにみかけるけれど、あまり普通にいる印象はない。日中は、死骸のように動きがないけれど、夜は活発に動き回り灯火に飛来したりする。

古い木造住宅で暮らしたことがある人ならば、この黒くて平べったい虫が、網戸に静止していたり、窓枠、玄関戸、柱などにピッタリくっついているところを見たことがあるかもしれない。



実は、この虫は床下で発生することがある。
紙包みのナガヒラタムシは、大東市の住宅街の木造住宅(一戸建て)で、平成10年6月に発生したもの。


私が現場に赴いて床下に潜ってみると、脱衣場の床組材が褐色腐朽菌にやられていた。ベイツガと思われる根太には、成虫の脱出口がみつかった。根太を材割りしてみると、ナガヒラタムシの幼虫も出てきた。
床組材腐朽の原因は、浴室排水の長期間にわたる漏水だった。


家のご主人は害虫大発生かとおののいていたが、ナガヒラタムシは木材害虫といえないと説明した。問題は腐朽菌が繁殖したことであり、腐朽材から出た虫は、むしろ住んでいる人に床下漏水を教えてくれた益虫といえる、と。


私はこの虫が家屋で発生しているところを2回みたことがあるだけだが、実際にはそれほど珍しいことでもなさそう。古い家でみたことがあるって人は、床組の腐朽菌による劣化を一応心配したほうがいいかも。

ついでに、いろいろ観察してみた。

雌雄の違いで分かりやすいのは、雄の複眼が大きいことと触角が長めなこと。





















後翅を収納するときは末端をらせん状に巻いてたたむ。
チビナガヒラタムシに似ている。(始原亜目の特徴)



















前胸の拡大。よく分からないがコレ(矢印)が前胸の背側縫合線というやつなんだろうか?



さやばねの透過光観察。花柄模様にみえる点刻列。


雄の交尾器(背面)は、一見筒状のようにみえるけれど、無理にグニョと広げてみると三片状になってて、こうしてみるとチビナガヒラタムシの交尾器に似た感じもする。

2015/12/17

日本最大のクモの巣・・・・・・(だったかも)




デジカメという道具は、害虫駆除業者の情報収集手段として、まことに有り難いものではあるけれど、何人かで現場をまわっていれば、1年もするとパソコンのハードディスクの中に数万枚の写真が堆積してたりするので始末に困る。しかも、なんかツマラナイものをやたらと撮ってるし。

5年以上も前の写真なら、もう決して役に立つことはないだろうから消去してしまえばいいのだが、なかなか踏ん切りが付かないまま、外付けハードディスクに移してしまう。

どれを消そうかなどと考えつつ古い写真を眺め出すと、業務にものすごく支障が発生するので、中身を見ないようにしてエイヤとフォルダーごと移動させることが肝要だ。

でもやっぱり古い写真をチラッとみると引き込まれる。
東大阪市の某駅に近い場所で撮影したクモの共同巣。2002年11月に暗渠のなかに張られていた。


暗くてよく分からないけれど、奥の外光が差している場所まで、クモの巣が切れ目無く続いていた。


写真の明度を変えて、クモの巣が見えやすくしてみた。



たくさんのアシナガグモの一種が共同で暮らしていて、網にかかったユスリカ類を食べていた。
短辺が0.6mで長辺は65mだから約39平方メートルのクモの巣だ。
ひょっとしたら、日本一の大きさだったかもしれない。われわれがユスリカを退治してしまったせいか、2ヶ月後にいくとクモの巣は残念ながらほとんど消えてなくなっていた。

アシナガグモ類も社会性ぽい行動をしているということは興味深い。



ユスリカ防除にアシナガグモを使えるかもしれない。ユスリカ類が発生する水面に目の荒いネットで簡単に覆い、大量飼育した個体群を放てば、巨大なシート状の巣を作ってくれて、ユスリカ類の成虫分散を封じることができるのではないだろうか?



*やっぱり米国は、アシナガグモも規模が違うなあ・・・。
Tetragnatha guatemalensisの巨大な共同巣
http://bizarrecreature.blogspot.jp/2015/05/creature-223-tetragnatha-guatemalensis.html

*こういう巣はメガウェブなどというらしい。
Greene, A., J. A. Coddington, N. L. Breisch,
D. M. De Roche, and B. B. Pagac, Jr. 2010.
An immense concentration of orb-weaving
spiders with communal webbing in a man-made structural
habitat (Arachnida: Araneae: Tetragnathidae, Araneidae).
American Entomologist 56(3): 146-156.


2015/12/14

ムリに答えてみる

粉砕された小さな甲虫でも、室内種であれば種数が限られるから、名前が分かることもある。


バラバラのオオメノコギリヒラタムシを複数個体調べるハメになって困ったが、頭部が残っていたのでなんとか同定できた。
雄の交尾器も確認してみたが、文献通りの形態だった。


ちょっと思ったのだが、頭がない雌のバラバラ死骸だったら、ノコギリヒラタムシとオオメノコギリヒラタムシをどうやって区別すればいいのだろう?
知っている範囲の貯穀害虫解説系の図書の中に、そんな疑問に答えてくれそうな本は思いあたらない。
コレは報告書を書く側にとっては楽ともいえる。「種までの同定に必要な形質を確認できない死骸であった」なんて、もったいぶった表現で仕事に区切りをつけることができる。
もちろん、ムリに答えを出す必要も全くない。
そして、標本の生殖器の比較などをやり出したりして、適当に答えを出そうものなら、それは独自研究っていう面が少なからず問題になってくる。
あのWikipediaとかも、たいそう嫌っている独自研究。

でも当ブログでやっていることといったら、独自研究なのかナニ研究なのか分からないし、研究と呼べるようなものですらないような気が強くするので、ノコギリとオオメの頭部以外の区別点に変にこだわってみる。

頭がないノコギリヒラタムシとオオメノコギリヒラタムシなんて、実体顕微鏡で眺めてみるくらいだと、まるで区別が付かない。
何の世界でも恐ろしい人はいるものなので、地上最強の同定者みたいな人がいれば、肉眼でふ節末端節をみただけでも「これはオオメじゃ」なんていってのけるかもしれない。けれどフツーはムリ、心が折れるだけ。

よくよく見つめ続けて比較していると、どことなく違っているような気もしてくる。胸部や脛節のカタチとか・・・。
これにしても、自身の観察眼がとらえた確かな点なのか、勘違いにすぎないのか悩むところ。

ノコギリとオオメの腹板基方の微小な表面構造が少し違うってことに気がついた。これは分類に使えるかも知れない(以下、両種とも雌だけ観察)。

ノコギリのほうは横長だけれど、


オオメの方は等径的。


感覚毛だろうか?ニョロニョロみたいなへんなカタチの短毛にも少し差がある。
左がノコギリで、右がオオメ。


両種の雌腹端内部に納まっている半腹板のあたりを比較してみた。
雌の半腹板末端にある尾毛の比較。上側がノコギリで、下側がオオメ。
ノコギリのほうがオオメより間延びした感じにみえるけれど、複数個体みていると区別がアヤシクなってくる。


ノコギリの雌には貯精嚢があるのだろうかと思って探してみたが、なんかぐるぐるしたモノがあるだけだった。これもspermathecaなんだろうか?
潰れたオオメの死骸からはキレイなカタチのものをみつけられなかったため、このあたりは比較できなかった。

ところでspermathecaをググると貯精嚢って普通にでてくるので、雄も雌も日本語だと貯精嚢か・・・なんて思っていたけど、個人的に聖典としてあがめている原色日本甲虫図鑑1巻を読み直して、雌にあるものは「受精嚢」と書くほうがよいことに気づいた。初心も初歩知識も忘れまくりである。

2015/11/29

和名のぶれ

職場の冬っていうと、1980年代ならばあまりのヒマさに、駐車場の隅で廃材を燃やして焼きイモをつくる日々だった。
近ごろは世知辛くなって、そんな暢気なこともやっていられない。
でも、社員一同で石油ストーブを取り囲み虫の標本をつくるという行事くらいは、なんとかして復活させたいものだ。

頂き物のヒメマキムシ科不明種(FIT採集)を標本にしてみた。
触角は11節、前胸側縁がノコ歯状で、後角が突出しているところが特徴的だけど、こんなのは以前にもどこかで見たことがあるような気もする。業務ならば、科で同定を止めてスルーのパターン。





日本産野生生物目録 無脊椎動物編2(1995)で近そうな種をあたってみると、ノコヒメマキムシ Corticaria serrataというあたりの和名が前胸のノコ歯を連想させる。で、ドイツやらポーランドのサイトで、ノコヒメマキムシの成虫や交尾器の写真を確認してみたけれど、特徴が一致するとはとても思えない。
「日本産屋内性ヒメマキムシ科について(田中,1995)」にも、ノコギリケシマキムシCorticaria sp. という近い感じの種があるが、交尾器などの記述はないので、結局やっぱり照合できずに不明種のままで終了。

ところでCorticariaのグループに使用される和名は、ケシマキムシ亜科なので○○ケシマキムシというのが普通だが、日本産野生生物目録や他の文献でも○○ヒメマキムシと書かれている部分がかなりある。
どっちでもいいみたいだ・・・。
タケノクロホソバでもタケノホソクロバでもどっちでもいい、なんていうどうでもいい話を思い出した。
とかいいながらも、自分のブログでは過去記事の表記ぶれをコッソリ直した。

2015/11/15

ウスキケシマキムシ

泉佐野市のりんくうタウンで採集したウスキケシマキムシ Corticaria japonica Reitter, 1877。
空き地に放置された枯れ草積みで、多くの個体を観察できる。

ウスキケシマキムシ成虫

雄の交尾器



交尾器のプレパラートは、ちょっとやり方がまずくて傾いた。
基本的に撮影後の交尾器はプレパラートからはずして、本体をのせた標本台紙の端にニカワで固定しておくことにしている。

ケシマキムシのいくつかの種では、
雄の前脚脛節先端近くの内側にトゲがみられる。
本種の雄にも小さいのがみられる。


普通種の交尾器の写真を撮影しておくことで、いつか何かの役に立つかも。
というふうに何かに使えそうといいながら、海や山で拾ったゴミや、電子機器ジャンク部品を溜め込んでいて、役にたったことが過去何回あっただろうか。
そういえば最近気がついたのだが、「いつか何かの役に立つかも箱」が自宅のこっそり隠していた場所からいつの間にか消えていて、なにげに家庭内に謀略や破壊工作の気配を感じる。

2015/11/08

KCN

録画していたテレビドラマ「トミーとタペンス」を、今日やっと観ることができた。時代の雰囲気みたいなものが、すごく重厚に伝わってくる感じの作品。
原作のアガサ・クリスティーの小説を読んだのは、遠い昔のことだ。こんな話やったかいのー、なんか違うような・・・などと思いながらも、細かいことは気にせず手に汗握りながら観た。

アガサ作品のいくつかについて記憶をたどってみるうちに、些細なことが気になってきた。20世紀初頭のロンドンの物語には、定番毒薬である青酸カリが、かなり身近な存在としてしばしば現れる。そんなモノを普段の生活で、いったい何に使っていたのかというと、意外なことに殺虫目的だったりする。
「そして誰もいなくなった」などでも、庭のハチ退治用によく使われているみたいな表現があったように思う。
いったい青酸カリなんてもんを、どんな風にムシ退治で使っていたのだろう?

Archive.orgとかBiodiversity Heritage Libraryを利用させていただいて、1900~1930年頃の害虫駆除関係の文献を調べてみると、たくさんの本や論文が出てくる。
特にトコジラミに対しては、他の方法はないだろうというくらいに、よく研究されて使用されていたようだ。

鍵穴からヒモを操って青酸カリの紙包みを酸液につけるとか。
推理小説かいな!
こんなメンドイこと絶対に当時の人だってやってなくて、
現場ではもっと大雑把な方法でやっていたに違いない。
Herrick, G. W. 1914. insects injurious to the household and annoying to man. The Macmillan Co., N. Y., 470 pp. 


建物内に液化青酸ガスを送り込んでいる害虫駆除作業者。
闇の組織からこられた人殺し中な方にしか見えない。
Back, E. A., and Cotton, R. T. 1932. Hydrocyanic acid gas as fumigant for destroying household insects. U. S. Dept. Agri. Farmers' Bull. 1670, 20 pp.

青酸カリの扱いが難しすぎるので、簡単で割と安全なタイプの青酸系殺虫剤もドイツで開発されたけれど、結局はホロコーストなんかに使用された。
第二次世界大戦後には本格的に普及したDDTにより、トコジラミ駆除で害虫駆除業者が命がけの仕事をしなくてもよくなった。

現在の平和な日本では、害虫駆除業界広しといえども、青酸カリでの殺虫なんてさすがにどこもやってないだろう。一部のガ類研究者が毒ビンで使っているくらいしか思いつかない。

2015/11/03

貯精嚢に擬態するもの

近くの大学の学園祭に夫婦そろっていってみた。ヨメはいろいろ喰いまくっていたし、爪に絵を描いてもらったりして大堪能しておられた。
私は、大学に落ちていた虫の死骸の標本箱が展示されたコーナーをのぞきこんで説明してもらった。オオクワガタの頭部とかエゾカタビロオサムシのぼろい死骸とか、アメリカザリガニが並んでて、自分の標本箱に近しいニオイを感じた。クッサということではなく。

備前市の海浜で採集したミツモンセマルヒラタムシ類を同定してみた。
採集直後の斑紋だけに頼った同定結果を、交尾器を確認して答え合わせをしてみた。
10問中8問正答していると考えた。ミツモンの紋が薄いヤツを、これはハチジョウにしとこうとかいいつつ間違えた。もうチョットだ。

ハチジョウがいないという前提で、ミツモンとニセミツモンを区別するだけなら斑紋で見分けられそうだけど、そんな前提なんてまるで意味がない。


とてもビビらされたのが、貯精嚢ソックリの外観とサイズのラボウルベニアっぽい菌類。当初はナゼ体外に貯精嚢がたくさんあるのか?なんて思っていた。目がいい人ならこんなことはないだろうが、視力が加齢とともにエエ加減になっているオッサンにはヤバイしろものだ。


雌のお腹を切り分けてると、貯精嚢を見失ってしまうことがたまにあるけれど、そんなときにニセ貯精嚢なんかみつけた日にゃあ、ニセミツモンのニセ貯精嚢なんてシャレにならんわ!
いろいろな本をたよりに貯精嚢と判断していた器官が、実は菌類だったらドウしようとまで思った。ていうか、なんなんだろうこの冗談めいたセカイは。

2015/11/01

サイパンのセマルヒラタムシの一種

何年も前にサイパン島でクワガタ採集したときに採れていたけど、四角紙に入れたまま忘れていたセマルヒラタムシ亜科を取り出して調べてみた。


紋が何もない。前胸側縁の突起も少ない。

手始めに地名と属名で調べてみようとして、Northern Mariana Psammoecusの3語でグーグル検索してみた。
すると、隣のグアム島や遠く離れたオアフ島などでPsammoecusが2種記録されているらしいということが分かった。図版がないかなと思って調べだしたが、”PROCEEDINGS OF THE HAWAIIAN ENTOMOLOGICAL SOCIETY" の全然関係ない古い論文に「ぐおお」とか感動して見入ってしまい、何を調べているのか思い出せなくなるという平常通りの状態で終了した。冷静に考えてみれば、図版が見つかったところで、分類的な判断をどうこうできるようなグループではないのだった。


サイパンの不明セマルヒラタムシは雌だったので、貯精嚢を取り出してみたら、少なくともミツモンセマルヒラタムシなどとは全然違う形態だった。貯精嚢は他のヒラタムシ上科でも調べると面白そうだし、今後も考え込むネタにしてみたい。
雌交尾器には強い複屈折がみられる部分がある。
雄交尾器でもみられる部位があるけれど、雌ほど明瞭な箇所は見当たらない。
昆虫は筋肉以外だと、クッキリした光学的異方性がみられる器官が少ないと思う。

ダニの感覚毛でもタンパク質の光学的異方性の有無が
気になるところだけれど、何かの情報伝達とかに関係していそう。


貯精嚢はやや大型。


2015/10/25

雌は勘定に入りません


ハチジョウミツモンセマルヒラタムシが1♂採れた神戸市北区に、再度訪問した。
今度も少しばかり、剪定後の柴積みを叩いてみたら7個体のミツモンセマルヒラタムシ類が落ちてきた。ハチジョウを7個体追加成功と思ったのはぬか喜びで、交尾器を調べると下の写真のような同定結果になってしまった。
*ミツ・・・ミツモンセマルヒラタムシ
*ニセ・・ニセミツモンセマルヒラタムシ
*ハチ・・・ハチジョウミツモンセマルヒラタムシ

この中で、ハチジョウの雌っていうのは実際のところアヤシイ。
しかし、そう考えた根拠は一応ある。
この仲間の雌の貯精嚢の形態を調べて、ミツモンとニセミツモンは区別できそうと考えていた。今回、1個体だけ得られた雌はそのどちらの形状とも少しちがって見えたので、1個体だけだし自信はないがとりあえずハチジョウではないかと・・・。





外観酷似セマルヒラタムシ類3種の雌の貯精嚢(胃袋的外観の長さ約0.12mmの器官)を並べて整理してみた。ミツモンは大阪府泉南市産、ニセミツモンは兵庫県神戸市産。

写真の「a」のあたりを屈曲部と仮に呼んでおく。
1.ミツモン Psammoecus trimaculatus
屈曲部が全体の3分の1程度で小さく、先細り。

2.ニセミツモン P. triguttatus
屈曲部が全体の5分の2以上で、先端側がやや膨らむ。

3.ハチジョウミツモン P. labyrinthicus ?
屈曲部が全体の5分の2以上で、先細り。

雌の貯精嚢の取り出しなんかしなくても、斑紋とか触角の一部の形状で区別できるような気はしている。
しかしながら、いつぞやのように食品工場の建物内壁面でまとまった個体数が見つかった場合は、今度は交尾器重視で同定できるようになっておきたい。

2015/10/17

ゴミダマでツメダニ探し


貰い物のニュージーランド産ゴミムシダマシ Mimopeus opaculus でダニ探しをしてみると、ゴミコナダニの一種 Sancassania sp.(コナダニ科)が、さやばねの下にいた。ゴミコナダニはヒポプスが20個体ほどで、数個体の第三若虫もみられた。同時にケナガコナダニとかヒラタチャタテの乾燥した死骸も同数ほどみられた。

第二若虫(ヒポプス)


第二若虫の抜け殻。透過偏光で光る部分がナゾい。
ヒポプスの検索に使えそう。

第三若虫


ケナガコナダニとヒラタチャタテは、ゴミムシダマシが死亡して乾燥してから、さやばねの下に入り込んだと考えられる。

では、ゴミコナダニの一種はどうだろう。本当にゴミムシダマシが生きていた頃から付着していたのだろうか?
ゴミコナダニ属は室内塵からも時に検出されるが、すでに甲虫の体表から検出されたという論文はいくつかあり、疑う必要はまるでない。

今回のゴミムシダマシの標本は腐ったりしてないのに、ヒポプス(第二若虫)から第三若虫が脱出しかけて死亡している状態だった。運び主の体表上でヒポプスの成長が進み出すことがあるとは少し意外な気がした。
なにかがひっかかる気がするが、もう眠たいし、エルキュール・ポアロ風にいうならば、灰色の脳細胞がまったく働いていない状態なので、真相の究明なんかはどうすることもできない。
まあでも、ヘンに疑ってしまっているが、ゴミコナダニ属は、運び主の選択幅が広いそうだし、たぶん野外でもゴミムシダマシに付着しているのだろうと思う。




*さやばねニューシリーズ最新号に、セマルヒラタムシ類の絵解き検索が掲載されてて、あたかも好物のお菓子でも頂いたかのようにホクホクしてしまった。
四角紙の隅に眠っているセマルヒラタムシ類を、引っ張り出してみようと思った。

2015/10/12

ツメダニ集めと社会主義

住宅で使用されていたという繊維製品から、またもやヒトクシゲツメダニ Acaropsellina sollersがみつかった。

このツメダニには、A. docta というド近縁種がいて、検索表もあるけれど両者の区別は難しい。同所的にみられたという報告もいくつかあり、同一種と考えている研究者もいる。
今回観察した個体群は、一応ほとんどの個体が A. sollers と同定できるし、doctaぽいのもsollersと変異が連続的に思われた。
日本の室内塵でみられるツメダニ科をみているだけだと、コレクションの種数を増やすことは難しそう。

大阪やその近隣地域の室内塵からは、頑張ればツメダニ類を10数種は観察できる。野外種はその倍くらいいるはずだが、状態の良い小動物や鳥の巣は簡単に手に入らないし、コウモリのグアノなんてものにも接近する機会がないので、これといって新たな種は観察できていない。

世界のツメダニをまとめたVolgin先生は、おびただしい種類の標本を一体どうやって入手出来ていたのだろう。Volginが研究をやってた1950年頃のソビエト連邦というと、スターリンがまだ元気だった頃だろうか。
粛清が大好きなスターリンとお友達だったりして、周囲の人にプレッシャーとかかけていたのかもと邪推してしまう。

ちょっと地方の農業技官とかに連絡をとって、君んとこからはツメダニがあまり送られてこないけれど、同志スターリンは祖国の科学発展に非協力的な輩は不快と感じるだろうとかなんとかいうだけで、メッチャ標本送ってくれそう。

・・・んなわけないか。

2015/10/01

キアシマルガタゴミムシのダニ

淀川には、かなり広い砂原がある。深夜に歩くと、各種のゴミムシ類が歩き回っているのを見ることができる。草深き河川敷では、夜中というのに無灯火で徘徊している不審者がかなりおられるが、なかでも昆虫の観察者というのは一等不審な感じで、他の不審者からもおおいに不審がられるキングオブ不審者といえよう。

砂地を何だかよたよた歩いているキアシマルガタゴミムシは個体数も多いし、お持ち帰りしたくない虫ランキングではかなり上位に位置している。

かなり以前に採集した淀川のキアシマルガタゴミムシのダニ類を観察してみた。
3個体調べてみたが、それぞれのさやばねの下にマヨイダニ科が1個体ずつ、ヒナダニ科が数個体ずつみられた。


マヨイダニ科はツエモチダニの一種 Antennoseius sp. で、この属からはゴミムシ類に便乗する種が世界中で記録されている。




これまで古い昆虫標本から取り出したダニ類に、カビが生えていないことが不思議でしょうがなかったが、ツエモチダニには、クラドスポリウムに似たカビがしっかり繁茂していた。第1脚先端の長毛は本属の特徴の一つだが、長毛に混じってカビが不思議なカタチの毛のふりをしていた。

*注:日本ダニ類図鑑(1980)のカワラモンツエモチダニAntennoseius imbricatus は観察したことがないが、図版を見ると第I脚ふ節にツメを欠き、ツメがあるべきところには先太りのくの字に折れた毛のようなものが描かれている。
淀川のツエモチダニの一種は、図鑑の種と激似だがツメを有する。写真の個体はツメ(前ふ節)があったが、それが外れて節窩からカビが伸びている状態と判断した。

ツメが傷んでいない個体の写真。
便乗するツエモチダニは、第1脚にツメを備える種が多いらしい。








ヒナダニ科は同じゴミムシから取り出しているのに、まったくカビが生えていなかった。
死んでもナゾのカビ止めが効いているのかもしれない。

ゴミムシ類ではいろいろな形態のヒナダニ類がみられるが、
ちゃんと名前が付いている種が多いので、
真面目に調べたら本種も同定できるかも知れない。

胴感毛はシラミダニ科と同じような形状なのに、例の複屈折が見られない。

第1脚のツメと特定の毛の複屈折が目立つ。




2015/09/28

トチノキの実

朝日に銀色の髪をキラメかせながら、いたずらを仕掛けるかのように歩を忍ばせつつ、ご近所のご婦人が私にそっと近づいてきた。
そして、手のひらにのせた丸いモノを差し出しながら、「これが何の実かご存じ?」となぜかヒソヒソ声。

ゴミ出し中の私は、眠い目をしばしばさせながら「トチノキでしょう。餅の原料になるけれど、つくるのはたいそう面倒らしいですよ。」とつられて密談のような声音で返事をした。

かの栃餅の原料であることにすこぶる感心しつつ、ご婦人はニマニマしながらその日の散歩途中に拾った実を、半分の三つ、私に手渡すと帰ってゆかれた。

私もニマニマしながら、頂戴したトチノキの実を玄関の下駄箱の上にかざった。ご婦人はつい最近、半世紀を共に過ごしたご亭主に先立たれたばかりだが、身近な植物観察は復活されたご様子。