2015/04/27

交尾器抜いた虫の外観がムゴイ件

神戸市有野町で昼休みにクズの枯れ茎を叩いていると、クロオビケシマキムシCorticaria ornata が落ちてきた。
枯れた植物をふるうと、よく採集できる種ではあるが、交尾器を観察してみた。




交尾器を取り除いた標本は、さやばねの毛が乱れてしまい恰好がよろしくない。
交尾器を観察するのに、非破壊的な方法はないものだろうか?
虫を丸ごと水酸化カリウム水溶液で煮て、透明にしてしまう方法もあるけれど、これは非破壊的とはいいがたい。



やはり微小甲虫の腹腔内体液の圧力を高めて、外部生殖器を反転させるような方法しかなさそう。
遠い未来に、ポータブル顕微MRIみたいな装置が発明されて普及すれば、微小甲虫交尾器のプレパラート作りなんて厄介な作業から解放されるかもしれない。

2015/04/26

オレンジオソイダニの一種

海蝕崖の途中に溜まっていた土を入れていたコンテナは、珍奇なものも普通なものも得られないまま時は過ぎ、観察者の溜息だけが箱の中に残っていくので、中身を捨てて不毛な執着心を断ち切ることにした。
コンテナの底に溜まっていたゴミを検鏡してみると、ササラダニ類に混じって、オレンジ色のダニの干からびた死骸が出てきた。
実体顕微鏡で見るだけだと、背面も腹面も頑丈そうな肥厚板で覆われていて、ナニ科なのかまるで分らなかった。

オレンジ色のダニをプレパラートにして、日本産土壌動物(1999)などで調べてみた。









触肢は5節、顎体部腹面の毛は4対で、最前方の1対がカイゼルひげのように曲がっている、鋏角毛を欠く、第四脚脛節に長い感覚毛がないなどの特徴から、オレンジオソイダニの一種 Orangescirula sp. と判断した。日本産土壌動物には、日本での生息は不明とある。


学名にオレンジなんて単語が入っているけれど、体色にちなんでいるのだろうか?脚の先端は太くて小さな突起がある。胴背部前縁が顎体部基部にかぶさっていたり、背面後端がちょんと上向きに反っているところなど、見慣れたオソイダニ科とはかけ離れた雰囲気がある。体長も0.3mmを切っていて、オソイダニ科としては小さいと思う。


*参考文献

芝 実. 1999. ケダニ亜目 Prostigmata. 所収:青木淳一(編),日本産土壌動物-分類のための図解検索.東海大学出版会,pp. 211-311

Skvarla, M.J.; Fisher, J.R.; Dowling, A.P.G. 2014: A review of Cunaxidae (Acariformes, Trombidiformes): Histories and diagnoses of subfamilies and genera, keys to world species, and some new locality records. ZooKeys, 418: 1-103














** スゴクちーさいといえば思い出したけれど、youtubeで「Hidden miracles of the natural world」という昨年あたりに話題になっていた動画がある。シロアリの脚にくっついている小さいダニの電顕写真は、見た人の多くが驚いたことだろう。
でも、あれってチョット疑わしい。マジな映像にコラージュ画像を挟んでいるようにみえる。
作者は映像作家さんらしいし、演出の一環かもしれないので、どうでもいいことかもしれない。
くだんの小さなダニは、ワクモ亜団 Dermanyssiaeの幼虫にも見えるが、サイズが小さすぎる。私が知らない種なだけってコトも十分あるけれど、そうだとしても体表寄生者ぽくない形態が気になりすぎる。シロアリの脚などに付着するヤツは、コナダニ団やイトダニ科の若虫みたいに短足で陣笠ライクな体型でないと、宿主にくっついていられないだろう。





2015/04/05

ニセミツモンセマルヒラタムシ

神戸市北区の食品工場で、壁面でミツモンセマルヒラタムシらしき成虫が複数個体はっていたことがあったのを思いだし、標本を確認してみたらミツモンセマルヒラタムシ Psammoecus trimaculatus だった。室内で世代交代できたのかどうかが未解決のまま、再発することもなく終わったケースだった。

食品工場の中にいたミツモンセマルヒラタムシの雄交尾器




調べ出すと、他の標本も気になってきたので次々に交尾器を観察してみた。
仕事の合間に、交尾器をみたりすると悲惨だ。
相談事に対応している間に、カバーガラスをかけていないプレパラートのうえにメモ用紙を置いてしまったり、電話をとろうとした瞬間に交尾器がどこかに飛んでいったりするので、交尾器がない標本なんてゆー誰もいらないものを量産してしまう。

ニセミツモンセマルヒラタムシ Psammoecus triguttatus は、兵庫県南部の郊外の雑木林数箇所で採集されていた。雄の交尾器は全体が比較的大きいが、側片の基部は小さい。



ニセミツモンセマルヒラタムシの雄




ニセミツモンセマルヒラタムシの雄交尾器


ミツモンとニセミツモンは、並べてみると確かにどことなく違う種類のような気がしてくるが、かといってドコが違うのかというのも上手くいいあらわせない。・・・まっ結局、1個体ずつ見分けられるようになれるとはまったく思えないムシである。

最新の論文では、検索表でさやばねの点刻列が比較的広いものがニセミツモンと書いてあるので、ためつすがめつしてみたのだが、どちらの種も同じように見えてよく分らなかった。

落射光でみた場合・・・気持ち程度ニセミツモンのほうが点刻列が太いような・・・。


透過光でみた場合・・・・・。


標本にあてる照明の加減によっては、なんとなくニセミツモンの点刻のまわりに大きなくぼみが見えるような気もした。透過光なんかだと逆にミツモンのほうの点刻がでっかくみえることすらある。
私が多分、なにか観察方法を間違えているのだろう。


門外漢にとって、昆虫分類学の専門的なテキストは、しばしば、「なんとかの山の頂に月が昇る時、かんとかの岩に止まった虫の背に光輪が指し示めす」みたいな冒険小説などにありがちな謎のごときものに等しい。
検索表を読み解こうとして、あっちこっちとぐるぐるとさまよい、やがて砂塵に半ば埋もれたされこうべになることが多い。
そういえば、ハチジョウミツモンセマルヒラタムシ Psammoecus labyrinthicus の種小名には、迷宮という意味の言葉が使用されている。このグループを調べるには、危険がイッパイということだろう。でもひるまずに進むしかない。 



石垣島の名蔵でライトトラップしたときの古い標本もでてきた。
海岸の砂地に飛来してきた個体はミツモンの雄だった。
海岸性のムシと家屋で見つかるムシとには、どこか秘めやかな関係があると思う。

石垣島の海岸のミツモンセマルヒラタムシ雄

上の個体の交尾器



標本を眺めながら、石垣島の暖かな夜の海岸に、ゆるりゆるりとよせる波のことを想った。

2015/04/02

ミツモンセマルヒラタムシ

先日、泉南市の海辺で枯れ草から微小甲虫を集めているとき、ミツモンセマルヒラタムシの類いを数個体見つけた。

この虫はよく似た外観の種が日本に数種いるけれど、私は数年前まですべて1種と思い込んでいて、先島諸島の森から大阪の室内までドコにでもはびこっていると誤解していた。
たいへん詳細なミツモンセマルヒラタムシ種群の分類学的論文が昨年に発表されていて、それを頼りに同定してみた。

雄の交尾器をみると、側片の基部が発達していた。さやばねの点刻列のくぼみが間室の幅より狭いか広いかという区別点は、とても観察しづらいトコロだが狭いようにみえた。
 ということで、泉南市の海岸で得た種は、全てミツモンセマルヒラタムシPsammoecus trimaculatus と判断した。


両方とも雄




雄の交尾器





1個体だけ複眼の内側から後方に斑紋がある雄がみられた。アイシャドーが濃ゆ過ぎ。





参考文献:Yoshida, T. & Hirowatari, T. (2014) A revision of Japanese species of the genus Psammoecus Latreille (Coleoptera, Silvanidae). Zookeys, 403: 15–45. doi: 10.3897/zookeys.403.7145