2015/10/25

雌は勘定に入りません


ハチジョウミツモンセマルヒラタムシが1♂採れた神戸市北区に、再度訪問した。
今度も少しばかり、剪定後の柴積みを叩いてみたら7個体のミツモンセマルヒラタムシ類が落ちてきた。ハチジョウを7個体追加成功と思ったのはぬか喜びで、交尾器を調べると下の写真のような同定結果になってしまった。
*ミツ・・・ミツモンセマルヒラタムシ
*ニセ・・ニセミツモンセマルヒラタムシ
*ハチ・・・ハチジョウミツモンセマルヒラタムシ

この中で、ハチジョウの雌っていうのは実際のところアヤシイ。
しかし、そう考えた根拠は一応ある。
この仲間の雌の貯精嚢の形態を調べて、ミツモンとニセミツモンは区別できそうと考えていた。今回、1個体だけ得られた雌はそのどちらの形状とも少しちがって見えたので、1個体だけだし自信はないがとりあえずハチジョウではないかと・・・。





外観酷似セマルヒラタムシ類3種の雌の貯精嚢(胃袋的外観の長さ約0.12mmの器官)を並べて整理してみた。ミツモンは大阪府泉南市産、ニセミツモンは兵庫県神戸市産。

写真の「a」のあたりを屈曲部と仮に呼んでおく。
1.ミツモン Psammoecus trimaculatus
屈曲部が全体の3分の1程度で小さく、先細り。

2.ニセミツモン P. triguttatus
屈曲部が全体の5分の2以上で、先端側がやや膨らむ。

3.ハチジョウミツモン P. labyrinthicus ?
屈曲部が全体の5分の2以上で、先細り。

雌の貯精嚢の取り出しなんかしなくても、斑紋とか触角の一部の形状で区別できるような気はしている。
しかしながら、いつぞやのように食品工場の建物内壁面でまとまった個体数が見つかった場合は、今度は交尾器重視で同定できるようになっておきたい。

2015/10/17

ゴミダマでツメダニ探し


貰い物のニュージーランド産ゴミムシダマシ Mimopeus opaculus でダニ探しをしてみると、ゴミコナダニの一種 Sancassania sp.(コナダニ科)が、さやばねの下にいた。ゴミコナダニはヒポプスが20個体ほどで、数個体の第三若虫もみられた。同時にケナガコナダニとかヒラタチャタテの乾燥した死骸も同数ほどみられた。

第二若虫(ヒポプス)


第二若虫の抜け殻。透過偏光で光る部分がナゾい。
ヒポプスの検索に使えそう。

第三若虫


ケナガコナダニとヒラタチャタテは、ゴミムシダマシが死亡して乾燥してから、さやばねの下に入り込んだと考えられる。

では、ゴミコナダニの一種はどうだろう。本当にゴミムシダマシが生きていた頃から付着していたのだろうか?
ゴミコナダニ属は室内塵からも時に検出されるが、すでに甲虫の体表から検出されたという論文はいくつかあり、疑う必要はまるでない。

今回のゴミムシダマシの標本は腐ったりしてないのに、ヒポプス(第二若虫)から第三若虫が脱出しかけて死亡している状態だった。運び主の体表上でヒポプスの成長が進み出すことがあるとは少し意外な気がした。
なにかがひっかかる気がするが、もう眠たいし、エルキュール・ポアロ風にいうならば、灰色の脳細胞がまったく働いていない状態なので、真相の究明なんかはどうすることもできない。
まあでも、ヘンに疑ってしまっているが、ゴミコナダニ属は、運び主の選択幅が広いそうだし、たぶん野外でもゴミムシダマシに付着しているのだろうと思う。




*さやばねニューシリーズ最新号に、セマルヒラタムシ類の絵解き検索が掲載されてて、あたかも好物のお菓子でも頂いたかのようにホクホクしてしまった。
四角紙の隅に眠っているセマルヒラタムシ類を、引っ張り出してみようと思った。

2015/10/12

ツメダニ集めと社会主義

住宅で使用されていたという繊維製品から、またもやヒトクシゲツメダニ Acaropsellina sollersがみつかった。

このツメダニには、A. docta というド近縁種がいて、検索表もあるけれど両者の区別は難しい。同所的にみられたという報告もいくつかあり、同一種と考えている研究者もいる。
今回観察した個体群は、一応ほとんどの個体が A. sollers と同定できるし、doctaぽいのもsollersと変異が連続的に思われた。
日本の室内塵でみられるツメダニ科をみているだけだと、コレクションの種数を増やすことは難しそう。

大阪やその近隣地域の室内塵からは、頑張ればツメダニ類を10数種は観察できる。野外種はその倍くらいいるはずだが、状態の良い小動物や鳥の巣は簡単に手に入らないし、コウモリのグアノなんてものにも接近する機会がないので、これといって新たな種は観察できていない。

世界のツメダニをまとめたVolgin先生は、おびただしい種類の標本を一体どうやって入手出来ていたのだろう。Volginが研究をやってた1950年頃のソビエト連邦というと、スターリンがまだ元気だった頃だろうか。
粛清が大好きなスターリンとお友達だったりして、周囲の人にプレッシャーとかかけていたのかもと邪推してしまう。

ちょっと地方の農業技官とかに連絡をとって、君んとこからはツメダニがあまり送られてこないけれど、同志スターリンは祖国の科学発展に非協力的な輩は不快と感じるだろうとかなんとかいうだけで、メッチャ標本送ってくれそう。

・・・んなわけないか。

2015/10/01

キアシマルガタゴミムシのダニ

淀川には、かなり広い砂原がある。深夜に歩くと、各種のゴミムシ類が歩き回っているのを見ることができる。草深き河川敷では、夜中というのに無灯火で徘徊している不審者がかなりおられるが、なかでも昆虫の観察者というのは一等不審な感じで、他の不審者からもおおいに不審がられるキングオブ不審者といえよう。

砂地を何だかよたよた歩いているキアシマルガタゴミムシは個体数も多いし、お持ち帰りしたくない虫ランキングではかなり上位に位置している。

かなり以前に採集した淀川のキアシマルガタゴミムシのダニ類を観察してみた。
3個体調べてみたが、それぞれのさやばねの下にマヨイダニ科が1個体ずつ、ヒナダニ科が数個体ずつみられた。


マヨイダニ科はツエモチダニの一種 Antennoseius sp. で、この属からはゴミムシ類に便乗する種が世界中で記録されている。




これまで古い昆虫標本から取り出したダニ類に、カビが生えていないことが不思議でしょうがなかったが、ツエモチダニには、クラドスポリウムに似たカビがしっかり繁茂していた。第1脚先端の長毛は本属の特徴の一つだが、長毛に混じってカビが不思議なカタチの毛のふりをしていた。

*注:日本ダニ類図鑑(1980)のカワラモンツエモチダニAntennoseius imbricatus は観察したことがないが、図版を見ると第I脚ふ節にツメを欠き、ツメがあるべきところには先太りのくの字に折れた毛のようなものが描かれている。
淀川のツエモチダニの一種は、図鑑の種と激似だがツメを有する。写真の個体はツメ(前ふ節)があったが、それが外れて節窩からカビが伸びている状態と判断した。

ツメが傷んでいない個体の写真。
便乗するツエモチダニは、第1脚にツメを備える種が多いらしい。








ヒナダニ科は同じゴミムシから取り出しているのに、まったくカビが生えていなかった。
死んでもナゾのカビ止めが効いているのかもしれない。

ゴミムシ類ではいろいろな形態のヒナダニ類がみられるが、
ちゃんと名前が付いている種が多いので、
真面目に調べたら本種も同定できるかも知れない。

胴感毛はシラミダニ科と同じような形状なのに、例の複屈折が見られない。

第1脚のツメと特定の毛の複屈折が目立つ。