2015/11/29

和名のぶれ

職場の冬っていうと、1980年代ならばあまりのヒマさに、駐車場の隅で廃材を燃やして焼きイモをつくる日々だった。
近ごろは世知辛くなって、そんな暢気なこともやっていられない。
でも、社員一同で石油ストーブを取り囲み虫の標本をつくるという行事くらいは、なんとかして復活させたいものだ。

頂き物のヒメマキムシ科不明種(FIT採集)を標本にしてみた。
触角は11節、前胸側縁がノコ歯状で、後角が突出しているところが特徴的だけど、こんなのは以前にもどこかで見たことがあるような気もする。業務ならば、科で同定を止めてスルーのパターン。





日本産野生生物目録 無脊椎動物編2(1995)で近そうな種をあたってみると、ノコヒメマキムシ Corticaria serrataというあたりの和名が前胸のノコ歯を連想させる。で、ドイツやらポーランドのサイトで、ノコヒメマキムシの成虫や交尾器の写真を確認してみたけれど、特徴が一致するとはとても思えない。
「日本産屋内性ヒメマキムシ科について(田中,1995)」にも、ノコギリケシマキムシCorticaria sp. という近い感じの種があるが、交尾器などの記述はないので、結局やっぱり照合できずに不明種のままで終了。

ところでCorticariaのグループに使用される和名は、ケシマキムシ亜科なので○○ケシマキムシというのが普通だが、日本産野生生物目録や他の文献でも○○ヒメマキムシと書かれている部分がかなりある。
どっちでもいいみたいだ・・・。
タケノクロホソバでもタケノホソクロバでもどっちでもいい、なんていうどうでもいい話を思い出した。
とかいいながらも、自分のブログでは過去記事の表記ぶれをコッソリ直した。

2015/11/15

ウスキケシマキムシ

泉佐野市のりんくうタウンで採集したウスキケシマキムシ Corticaria japonica Reitter, 1877。
空き地に放置された枯れ草積みで、多くの個体を観察できる。

ウスキケシマキムシ成虫

雄の交尾器



交尾器のプレパラートは、ちょっとやり方がまずくて傾いた。
基本的に撮影後の交尾器はプレパラートからはずして、本体をのせた標本台紙の端にニカワで固定しておくことにしている。

ケシマキムシのいくつかの種では、
雄の前脚脛節先端近くの内側にトゲがみられる。
本種の雄にも小さいのがみられる。


普通種の交尾器の写真を撮影しておくことで、いつか何かの役に立つかも。
というふうに何かに使えそうといいながら、海や山で拾ったゴミや、電子機器ジャンク部品を溜め込んでいて、役にたったことが過去何回あっただろうか。
そういえば最近気がついたのだが、「いつか何かの役に立つかも箱」が自宅のこっそり隠していた場所からいつの間にか消えていて、なにげに家庭内に謀略や破壊工作の気配を感じる。

2015/11/08

KCN

録画していたテレビドラマ「トミーとタペンス」を、今日やっと観ることができた。時代の雰囲気みたいなものが、すごく重厚に伝わってくる感じの作品。
原作のアガサ・クリスティーの小説を読んだのは、遠い昔のことだ。こんな話やったかいのー、なんか違うような・・・などと思いながらも、細かいことは気にせず手に汗握りながら観た。

アガサ作品のいくつかについて記憶をたどってみるうちに、些細なことが気になってきた。20世紀初頭のロンドンの物語には、定番毒薬である青酸カリが、かなり身近な存在としてしばしば現れる。そんなモノを普段の生活で、いったい何に使っていたのかというと、意外なことに殺虫目的だったりする。
「そして誰もいなくなった」などでも、庭のハチ退治用によく使われているみたいな表現があったように思う。
いったい青酸カリなんてもんを、どんな風にムシ退治で使っていたのだろう?

Archive.orgとかBiodiversity Heritage Libraryを利用させていただいて、1900~1930年頃の害虫駆除関係の文献を調べてみると、たくさんの本や論文が出てくる。
特にトコジラミに対しては、他の方法はないだろうというくらいに、よく研究されて使用されていたようだ。

鍵穴からヒモを操って青酸カリの紙包みを酸液につけるとか。
推理小説かいな!
こんなメンドイこと絶対に当時の人だってやってなくて、
現場ではもっと大雑把な方法でやっていたに違いない。
Herrick, G. W. 1914. insects injurious to the household and annoying to man. The Macmillan Co., N. Y., 470 pp. 


建物内に液化青酸ガスを送り込んでいる害虫駆除作業者。
闇の組織からこられた人殺し中な方にしか見えない。
Back, E. A., and Cotton, R. T. 1932. Hydrocyanic acid gas as fumigant for destroying household insects. U. S. Dept. Agri. Farmers' Bull. 1670, 20 pp.

青酸カリの扱いが難しすぎるので、簡単で割と安全なタイプの青酸系殺虫剤もドイツで開発されたけれど、結局はホロコーストなんかに使用された。
第二次世界大戦後には本格的に普及したDDTにより、トコジラミ駆除で害虫駆除業者が命がけの仕事をしなくてもよくなった。

現在の平和な日本では、害虫駆除業界広しといえども、青酸カリでの殺虫なんてさすがにどこもやってないだろう。一部のガ類研究者が毒ビンで使っているくらいしか思いつかない。

2015/11/03

貯精嚢に擬態するもの

近くの大学の学園祭に夫婦そろっていってみた。ヨメはいろいろ喰いまくっていたし、爪に絵を描いてもらったりして大堪能しておられた。
私は、大学に落ちていた虫の死骸の標本箱が展示されたコーナーをのぞきこんで説明してもらった。オオクワガタの頭部とかエゾカタビロオサムシのぼろい死骸とか、アメリカザリガニが並んでて、自分の標本箱に近しいニオイを感じた。クッサということではなく。

備前市の海浜で採集したミツモンセマルヒラタムシ類を同定してみた。
採集直後の斑紋だけに頼った同定結果を、交尾器を確認して答え合わせをしてみた。
10問中8問正答していると考えた。ミツモンの紋が薄いヤツを、これはハチジョウにしとこうとかいいつつ間違えた。もうチョットだ。

ハチジョウがいないという前提で、ミツモンとニセミツモンを区別するだけなら斑紋で見分けられそうだけど、そんな前提なんてまるで意味がない。


とてもビビらされたのが、貯精嚢ソックリの外観とサイズのラボウルベニアっぽい菌類。当初はナゼ体外に貯精嚢がたくさんあるのか?なんて思っていた。目がいい人ならこんなことはないだろうが、視力が加齢とともにエエ加減になっているオッサンにはヤバイしろものだ。


雌のお腹を切り分けてると、貯精嚢を見失ってしまうことがたまにあるけれど、そんなときにニセ貯精嚢なんかみつけた日にゃあ、ニセミツモンのニセ貯精嚢なんてシャレにならんわ!
いろいろな本をたよりに貯精嚢と判断していた器官が、実は菌類だったらドウしようとまで思った。ていうか、なんなんだろうこの冗談めいたセカイは。

2015/11/01

サイパンのセマルヒラタムシの一種

何年も前にサイパン島でクワガタ採集したときに採れていたけど、四角紙に入れたまま忘れていたセマルヒラタムシ亜科を取り出して調べてみた。


紋が何もない。前胸側縁の突起も少ない。

手始めに地名と属名で調べてみようとして、Northern Mariana Psammoecusの3語でグーグル検索してみた。
すると、隣のグアム島や遠く離れたオアフ島などでPsammoecusが2種記録されているらしいということが分かった。図版がないかなと思って調べだしたが、”PROCEEDINGS OF THE HAWAIIAN ENTOMOLOGICAL SOCIETY" の全然関係ない古い論文に「ぐおお」とか感動して見入ってしまい、何を調べているのか思い出せなくなるという平常通りの状態で終了した。冷静に考えてみれば、図版が見つかったところで、分類的な判断をどうこうできるようなグループではないのだった。


サイパンの不明セマルヒラタムシは雌だったので、貯精嚢を取り出してみたら、少なくともミツモンセマルヒラタムシなどとは全然違う形態だった。貯精嚢は他のヒラタムシ上科でも調べると面白そうだし、今後も考え込むネタにしてみたい。
雌交尾器には強い複屈折がみられる部分がある。
雄交尾器でもみられる部位があるけれど、雌ほど明瞭な箇所は見当たらない。
昆虫は筋肉以外だと、クッキリした光学的異方性がみられる器官が少ないと思う。

ダニの感覚毛でもタンパク質の光学的異方性の有無が
気になるところだけれど、何かの情報伝達とかに関係していそう。


貯精嚢はやや大型。