2015/05/31

ミナミホソナガカメムシ

昨日は一人で軽乗用車を駆り、和歌山市新宮市へタッチして帰ってくるという仕事があった。
往復約8時間を費やし、帰社して歯が痛くなり何故だろうと考えていたが、どうやら揺れまくる車中でずっと歯を食いしばっていたコトが原因ぽい。
高速道路代をケチって山道を通るんじゃなかった・・・。





新宮市では、業務の合間に王子ヶ浜を20分ほど散策した。
コンクリート堤防の隙間から生えたススキを叩くとカメムシがおちてきた。
細長い体長約7.5mmのうす茶色いカメムシで、普段なら絶対持ち帰ったりしないようなヤツだが、何かの縁だろうから採集してみた。

このような遠隔地を訪れたのだから、さぞ良いブログネタになる珍しい甲虫でも採集できるだろうと期待していたが、海岸ではこのカメムシ以外全く採集できないというたいしたイモぶりであった。

カメムシはミナミホソナガカメムシParomius exiguusのオスと同定した。
近縁種との区別点はホントに難しいけれど、口吻先端が中脚基節に達するという特徴に頼った。
他にも交尾器を見てみたが、中央片先端にある螺旋状の管(日本語では正式になんという部位なのか知らない)が硬化して大きいというのも特徴らしい。
螺旋状の管は、時計のゼンマイのような外観と質感で、引っ張ってもすぐに元の形状に戻る。
遺伝子は盲目の時計職人らしいけど、ほんとに時計のゼンマイを作ってやがったと思った。



矢印位置まで口吻がある。


薬品処理していないときは平たくキレイに巻いた形状。

乳酸処理で透明にするとゼンマイの形が崩れた。

どうやったらメスの体内に、こんなグルグルしたものを送り込めるのだろう。











2015/05/29

エリトラ ニューシリーズ きたる!

としふるにつれ、感動するものがドンドン少なくなる中で、とてもタマシイ的なあたりを揺さぶられる雑誌の最新刊が本日届いた。
例のオオスズメバチの廃巣にたむろうツヤムネハネカクシが、ついに新種として発表。あくれりす氏の裏山がタイプロカリティーになる種ってどんだけおんねんと、空恐ろしい気がした。六甲山系みたいに、古くから強力な採集圧に曝され続けている地で新種とは・・・。このグループは今後もぞろぞろと新種が記載されそう。

他にも、でっかいタマキノコムシとか想像できない虫が載ってて驚きあきれまくり。

台湾から記載されたカミキリモドキは、北海道のフトカミキリモドキ族不明種にそっくり。私がいかにエー加減に属をコレちゃうかアレちゃうかとのたまっていたかということを思い知らされた。ちゃんと文献読まんと、「模様同じやん。コレやん」という小学生の頃からの同定方法はたいがいにしとこうと激しく自壊(自戒)。

アナタカラダニ類 Balaustium sppを整理しようと思って、液浸標本をかきまわしていると、干物になっていたりビンごと無くなっていたりでダメダメな状態だった。
大阪市内の公園で採れる暗赤色のアナタカラダニの一種のプレパラートを見直してみた。やはり爪が細長いのでカベアナタカラダニBalaustium murorumでないことだけは確か。



口之永良部島がヒドイことになっている。
新岳の火口を覗いてから、もう何十年にもなるけれど、靴底の熱さと、硫黄のニオイ、底知れぬ地割れなどは今でも心から離れない。
山頂のすり鉢のフチでは、石下で越冬しているヒメサビキコリの一種の大集団をみつけてとても驚いたものだ。
カジュツ工場の灯火で、ダイコクコガネのメスやエゾカタビロオサムシを拾ったのも、まるで昨日のことのよう。

マメクワガタを採集して、地元の方々との宴席で披露したら、「これがツノムシ(クワガタムシの方言)?・・・ぶはははっ」と皆に笑われたものである。

火山活動が一刻も早く沈静して、島民の方々の暮らしが元に戻るよう願うばかり。

2015/05/17

クロケシタマムシ

細小を極めた体躯のムシになると、眼前にあってもムシかゴミかの判断からが困難で、採集すべきかどうか思案のしどころになる。対応策としては、吸虫管を用いたナンデモスウ法という奥義がある。

兵庫県豊岡市の国道沿いの河原から、全てムシだと信じて持ち帰った植物片の中に、クロケシタマムシが1個体混じっていた。








いかつい風貌は、火星に持ち込まれた昆虫が進化するというかの有名な昆虫学蘊蓄SFマンガをほーふつとさせる。




上の個体から外れた中脚ふ節の透過光観察。



妙に規則的にみえる円いドットがある前胸背とか、歯ブラシの先みたいなふ節などをしみじみ観察してみた。
Aphanisticus属の幼虫は潜葉虫で、イネ科やカヤツリグサ科などを好むらしく、サトウキビを加害する種もいるらしい。

後翅をみてみたら、退化的で飛べないサイズだった。枯れ草の甲虫って、なにかしら飛べない種に出会うような気がする。少し前に観察したクロオビケシマキムシなんかも、同じように飛べないサイズの後翅だった。

何かの甲虫の論文で、飛べなくなることが生存上の利点となる数理モデルの話があったような記憶があるけれど、枯れ草のかたまりとか河原の草むらみたいな不安定にみえる環境で、よくもまあ飛ばないなんて選択肢がありうるものだ。

2015/05/15

タテスジツメダニの一種

日本産土壌動物 第ニ版(2015)では、ハマベツメダニ以外にも、ツメダニ科の掲載種が増えてて新しい和名もみられた。さっそく、ウレシがって使ってみる。



タテスジツメダニの一種 Chelacheles sp. 。
大阪府下の木造家屋の畳から採集された。
ツメダニ科には、本種みたいに細長い体型の種がいくつかいて、狭い隙間に逃げ込んだエモノを「はっはっは、ドコへいこうというのかね。」などといいながら追い詰めているワルモノと推察される。

さらに細長いツメダニになると、シギ類の羽軸に入り込んで他のダニを食べていると思われる種もいる。日本から記録はないと思うものの、それがみたくてずっと探している。だけど、願いはゼンゼン叶わない。
私が南港野鳥園なんかにいるとき、干潟で戯れる愛らしいシギ類をみながら、心臓発作とかでポックリいかへんかなアイツ・・・などと考えたりすることは絶対ないけどね。


日本産土壌動物 第ニ版の増補された知見では、ムカデ綱のトコロも気になってて、やはりアカズムカデが載っていなかった。
「新日本動物図鑑<中>(1965)」に「はなはだまれである」なんて書いてあるけれど、ホンマは日本におらんのとちゃうかという気がしてきた。
それと、古くからの文献には、アオズムカデの区別点として、第20歩肢ふ節第1節のふ節棘がないことが挙げられているけれど、つい最近、右と左でふ節棘の生え方が異なる個体を拝見させていただく機会があった。
日本産土壌動物 第ニ版では、オオムカデ属のふ節棘については一言も触れていなかった。あまたの標本を見たことがある研究者からは、ふ節棘は重要な特徴とみなされていないのかも知れない。

2015/05/13

ハマベツメダニのオス

「日本産土壌動物」の線画は美しいものが多い。

極めつけにお気に入りなのが、「ケダニ亜目」のところ。正確でわかりやすい。
もーほんとコレはリアリズムの芸術といっていいと思うし、原画展があったら必ず見に行くレベルだ。

日本産土壌動物 第ニ版(2015)では、さらに線画が増えてて眺めるだけでも楽しい。

ツメダニのページでハマベツメダニの学名が訂正されていた。Cheletomimusには、新たにオオギツメダニ属の和名があてられた。
ついに専門家によって、和名と学名が整理されたので、これからは安心してブログでツメダニのネタを扱えそう。

他にも、新しい考え方の「ダニ亜綱 Acari」が採用されず、いくつかの理由を挙げて「ダニ目 Acari」のままにされているところなども印象的だった。そのほかの高次分類についても、新しい分類単位の使用が一部見送られている。
系統関係については、年々知見が増えるごとに私の理解可能な領域ではなくなっているのだけれど、いまのところ私にはナニも分らないので、なんの感想も差し挟めやしない。

ハマベツメダニ Cheletomimus (Hemicheyletia) gracilis Fain, Bochkov and Corpuz-Raros, 2002 は淀川の河原などでは個体数が多いが、飼育しているとオスが出てくることがある。
屈強な雰囲気で、頭部や背面がメスより硬そう。内側胴背毛の形状がメスは変な形だが、オスの方は普通に扇状。




2015/05/04

マダニの呼び声

某所の河原でマダニを衣服から取り除きながら、そのうちの数個体はフィルムケースに収めて持ち帰った。
どこでもかしこでもマダニの多さには、ウンザリさせられる。シカの増殖と行動範囲の拡大による影響って話だが、実際にシカの食み跡はそこら中で観察することができる。

マダニを見かけるまですっかり忘れていたけれど、SFTSウィルスって近畿圏でも結構検出されていたと思う。


採集品を同定してみるとフタトゲチマダニ Haemaphysalis longicornis の若虫だった。
マダニ類は普通種の若虫と成虫であれば、文献をたよりに同定できる。
観察のポイントは脚基節の内棘や,顎体部背面の基部後縁にある角状体、触肢の形状など。







写真の個体は水+オキシフル+中性洗剤の混合液に18時間漬けていて生きていた。一緒に入れていた微小甲虫たちは体がふくれて死亡していたのに、フタトゲチマダニ若虫だけが、外観の変化もなく生きていた。
オキシフルに入れられて、泡も出ないで生きている生物って何なんだろう。未吸血個体だけの特徴なんだろうか?体表構造がどうなっているのか知りたい。

ところでなんだってまた私も、全く価値がないような昆虫を採集しに、マダニだらけの野や山へ出かけているのだろう?
ウィルスなどの寄生体がホストの行動を制御していることがあるらしいので、知らないうち脳を蝕むものの囁きに身を任せて、マダニ類に献血しにさまよい歩いているだけということは否定しきれない。

「山がワシを呼んでいる」とかって、家族にウイルス陰謀説を語り聞かせていると、「電波やね。いつもの電波なんやね。」という温かい反応であった。


参考文献: 藤田博己, 高田伸弘:日本産マダニの種類と幼若期の検索. ダニと新興再興感染症(SADI 組織委員会編), 全国農村教育協会, 東京p53-68, 2007.