2016/10/30

チビナガヒラタムシの虚成虫(ghost adult)の論文

チビナガヒラタムシ成虫の標本は、見応えがしない。ウチの標本箱の中身を、キレイさとかカッコよさを基準として並べ替えるなら、クロゴキブリ1齢幼虫の隣あたりに位置しそうだ。
最後にチビナガヒラタムシの成虫を観察してから何年も経過しているので、自分の標本箱内にある台紙に付着している小物体が、飛び散ったヒジキの破片なのか、ホントに虫だったのかというあたりさえ揺らいできている。 

チビナガヒラタムシが紹介されるときは、白い幼虫の形態のままで増殖できる変わった甲虫ということが決まって取り上げられる。
それよりも、ときどき出現する成虫(さやばねのある黒いヤツ) が謎すぎるってことのほうが不思議で、昆虫界屈指の難問の一つと思う。

暑い時に成虫が現れるってことは私も気が付いていて、成虫を得たいのなら涼しい恒温器に入れたりせず、蒸し暑い部屋に放置しておくことが一番と考えていた。これは虫好きなら、自然とでてくる発想の範囲だろう。
ところが、本格的なプロの生物学者となると、私なんかとは全然発想が違う。
幼虫を加熱すると確実に成虫が多くなることを見つけて、定量的な調査をした研究が今年発表されている。

その論文↓
Perotti, M. A. et al. The ghost sex-life of the paedogenetic beetle Micromalthus debilis. Sci. Rep. 6, 27364; doi: 10.、1038/srep27364 (2016).

腐朽材を加熱してみようなんて、よくもまあ思いついたものだと、驚きと興奮をもって読ませて頂いた。

多数の成虫を得て定量分析しつつ、生殖機能に障害を持っていることや、共生微生物との関係についてとか、進化的な意味まで論じている。
悠久の彼方から生き残っていた昆虫が、どれほどトンデモないことをやっているのかを暴こうとする研究だ。
チビナガヒラタムシの謎は、この論文で相当説明がついたって気がする。

でも、腑に落ちない点はいくつかあって、この論文では成虫の性比が極端に偏っていて雌が多いという結果が得られている。
他の報告例でも、雌が多いっていわれているので、そこが検証されて確実なものになったって感じだ。

おかしなことに、ウチの事務所で発生していた時は、雄ばかりが出てきて最終的に雌が少ないってこともあった。
飼育が下手くそだから、変になることもあるのだろうけれど、いったい何が変になったら雄が優勢になるのだろう?
やはり、チビナガヒラタムシについては研究すべきことはまだまだありそうだ。

なんとか、実験動物として安定した供給ができるようにならないものかと思う。

先日、端が少しだけ腐っている松杭を街角でみかけて、腐朽部分を出来るだけ多くむしり取ろうとしたけれど、収穫は小指の先ほどしかなかった。
その中にチビナガヒラタムシの2齢幼虫が2個体見つかったけれど、加湿しすぎたのかそのうち1個体は翌日に死んでしまった。たぶん杭を丸ごと持ち帰ってもあまりいそうにない感じだったので、もっと良い材を探すしかない。
大事にしてなかったときは、いろいろ秘密を見せてくれた虫だが、いざ飼育しようとすると採集さえ思うようにいかない。
きっと今回も、マーフィーの法則的な何かに虫採り運が支配されているのだろう。

でも、あきらめずに探し続けてみるつもり。

ずいぶんいい加減な感じの飼育状況

ジッとしていると思ったら腹端が変色して死んでた。

2016/10/28

ヒサゴクチカクシゾウムシ

●和歌山県新宮市に行って、仕事をしたのはもう5ヶ月ほど前になる。その折に、海に近い雑木林にちょっと寄り、小さな朽ち木をコンビニ袋に入れて持ち帰っていたけれど、このたびメデタク小さなゾウムシが現れた。

ヒサゴクチカクシゾウムシ Simulatacalles simulator は珍しい種でもなく、特に関心のある虫でもないけれど、ムキになって脚を左右対称になるように整えた。
はがせる両面テープの上に虫をくっつけてから、サランラップの微小な破片でふ節を押えた。
写真撮影後に気が付いたが、触角が傾いた状態で焦点合成処理しているので、実際より随分と短く見えてしまう点がイヤな感じ。

虫を外すときは、面相筆に含ませたエタノールを、虫と両面テープの間に流し込む。
外れやすくなったら、そっと虫を剥がして紙製台紙に移して、ラベルをつけたら標本作り終了。



2016/10/10

キボシカミキリの便乗ダニ

神戸市須磨区産のダニ付きキボシカミキリ Psacothea hilarisを観察した。 Acleris氏の採集品。
ダニは2種類いた。
キボシカミキリの中脚基節付近に付着していた体長約0.2mmの種は、Paracarophena sp.だった。
この属はタマゴシラミダニ科Acarophenacidaeに含まれ、カミキリムシ科やキクイムシ科から記録されている。
日本から、キボシカミキリの卵への寄生状況についての論文がある。
その論文中の種は形態的な記述がほとんどないけれど、今回観察した種とたぶん同じ。






顎体部がのっぺらぼーな雰囲気で、どうやってモノを食べているのかイメージできない。
透過偏光観察すると、硬い鋏角があれば明瞭な複屈折が観察されることが多いが、本種ではなにか小さなものがあるなということしか観察できなかった。

透過偏光観察。矢印位置に何かありそう。

腹部肥大したダニはみられないので、カミキリムシの体表から体液を吸っているわけではなさそう。
昆虫の卵殻にくっついたときは吸汁できるようなので、鋏角 がなにか変わった仕組みになっているのは間違いないだろう。



もうひとつの体長約0.4mmのトゲダニ目は、カミキリムシの体表の決まった場所にいなくて、頭部から腹端までまばらにいた。




菌糸の破片のようなものがみえていた。



マツノカザリダニAmeroseius pinicola Ishikawa, 1972 カザリダニの一種 Ameroseius sp. と同定した。(追記:たぶんこの記事を書いたときはマツダカザリダニと思っていて、和名が似ているマツノカザリダニの学名を誤記したようだ。たが、その後、調べなおしてみるとAmeroseius ulmi と考えられる。)体内に菌類の破片がみられたので、菌食性と思われる。本州、四国、隣国の中国から記録がある。

体表のでこぼこには胞子が入り込んでいて、菌の運搬に役立っているのかも。そういえば菌食性の甲虫にも、やたらと凹凸の激しいのがいる。

どちらのダニも雌ばかりで、さやばねの下にはみられず、便乗ダニと考えた。