2016/11/12

コツノアリの雄有翅虫

雑木林の林縁で小さな朽ち木を、いつになく注意深くチビチビと削っていた。
コジイと思われる朽ち木の端で、数個体のチビナガヒラタムシが出てきたためだ。
たどっていった孔道は、こちらの期待を打ち砕くように、すぐにコツノアリ Carebara yamatonis のコロニーに変わってしまった。

コツノアリの働きアリの体長は1mmほどだが、雄は3mmに達する。
こんな羽アリだけを採集してしまった場合には、名前なんか分りっこないと思う。




コツノアリ雄の交尾器




2016/11/10

思いがけない愛国者

私の身の周りには、ヤスデという生物名と本体がちゃんと一致していない人が相当いらっしゃる。「ムカデかヤスデかゲジゲジみたいなやっちゃ」というふうに語られてみたり、「あしがいっぱいあるシッケムシ」と、多くの昆虫を含む大阪限定専門用語が拡張適用されることすらある。
私たち一般人の意識にあるヤスデは、最も辺縁の混濁した領域に配置され、不快という石の下敷きになっている動物群といえる。

われわれ害虫駆除業者でも、ヤスデについての知識は自慢できるほどのものを持っている人なんてそういない。
遠い過去には、専門教育を受けてきたはずの人物が、業務中に「倍脚類」の語句を思い出せず、「両生類」と失言したのに逆上してしまい、くどくどと小言を垂れてしまったこともある。後で、冷静になってから、あっなんか間違えるの分かると自分でもチョット思った。確かに体の「両」側に脚が「生」えている。

大阪市内では、少しでも土や落ち葉があるような地面であれば、ごく普通に黒褐色と赤色のシマシマのヤスデを観察することができる。が、実際に観察するような勇者もまた極めて稀だろう。
とにかくヤツらは臭い。それに分類しようとしても、参考になるような本の見当がつかない。
倍脚類については、分類学的な知識が安売りされていないようで、高価な本や図書館の「帯出禁止」シール付き本にあたらないと、断片的な情報にさえ触れることができない。

いやいやながらだが、相談事例もかなりあることだし、分かる範囲で大阪市内のシマシマヤスデのことを調べてみた。
結論からいえば、ヤマトアカヤスデ Nedyopus patrioticus (Attems, 1898) と判断した。

矢印位置に生殖肢あり



生殖肢 左側の内側からみた状態


生殖肢の関節を迂回して飛び出して、
また陥入するという謎構造の精管

精管(複屈折で白く光る線)は先端付近まで伸び
ハチの毒針のように細くなって突出(矢印)している。


分類には雄の第7胴節にある生殖肢を用いた。生殖肢は観察する方向により、形状がまったく異なってみえるので、文献の絵と見比べるのに結構苦労した。
『新日本動物図鑑(中)』(1965年)と『日本産土壌動物 第二版』(2015年)で主に調べた。
あと以下の文献もすごく参考になった。
Chen, C.-C. and H.-W. Chang. 2004. Taxonomic Study of the Paradoxosomatidae (Diplopoda) from Taiwan.

種小名は愛国者を意味しており、台湾名も愛国者腹馬陸になっていた。
日本産の個体に基づいて記載されているヤスデに、なぜ愛国者???

丸まった個体をみて、思いついたのが旭日旗。
旭日旗は、wikiで調べると1889年から大日本帝国の軍艦旗として使用されているそうなので、記載年と時期は合う。
ゼッタイ、やっぱり関係あるわ、コレは!知らんけど。

旭日旗風の個体は見当たらないが、たまにそんな風にみえそう。
白いシマのもいるが同一種。