2017/08/06

英語だとホラアナのチャタテムシ

京都市にある静謐な寺院の御堂の床で、小さなチャタテムシをみつけた。
外は暑かったけれど、その建物の中は真っ暗でひんやりとしていた。

意外と採集しにくいチャタテムシだった。
床に敷き詰めた石板の上に静止している成虫を見つけて、ゆっくり近づくと光を忌避しているのかスッと飛んでどこかに消えてしまう。
何匹にも逃げられ一向に捕まらないので、本当は実体のあるムシではなく、ムシの霊をみているのかもしれないと思い始めた頃、なぜか懐中電灯の光の中でも静止したままの成虫を見つけて1個体採集できた。


ヒメチャタテの仲間の完全な個体の標本を作れると喜んでいたけれど、いつものように他の業務をしている間に、採集した虫のことをすっかり忘れてしまっていた。2日後にフイルムケースの底でカビが生えている成虫をみて、やっと思い出した。

ゲンナリとしながらも死骸を取り出してみると、ヒメチャタテの仲間ではなく、セマガリチャタテの一種 Psyllipsocus sp. だった。
ときどき室内で色白な短翅型のヤツがみつかるが、長翅型は初めてみた。身体が暗褐色だ。
そんなものをカビさせたってことに、打ちひしがれながら翅などの標本をつくってみた。

長翅型の成虫の頭部や、脚の爪なども観察して、文献と照らし合わせてみた結果、
Psyllipsocus ramburii Selys-Longchamps, 1872 と判断した。
翅脈は独特な感じで個体変異が大きく、翅が大きくなるほど翅脈が複雑になる傾向があるらしい。

翅脈には剛毛が生えていた。

頭部

大あごの内側にある内葉という棒のような器官。

脚の爪

和名はないっぽいけれど、世界中で普通に見つかっていて、海外の室内害虫のリストに載ってることもあるヤツだ。今まで食品工場などでみてきた短翅型もたぶん同じ種と思う。建物で発生するパターンは、まだ掴めていないけれど、今後も注意していたい種だ。
日本産の同科には、セマガリチャタテ Psyllipsocus sauteri (Enderlein, 1906)がいて、長翅型しかいないとか腹部に赤褐色の点々模様があるとかって話だけれど、そっちもゼヒみてみたい。

BugGuide.Netでは、セマガリチャタテ科 Psyllipsocidae にCave Barklice っていう英名が当てられている。洞窟とかでもよく見つかるらしい。

過去記事の短翅型雌。